キクマヤスナリ写真展「kanata」

Jul 8 — Nov 26, 2023

Presented by art biotop Past
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私たちの周囲は今や光に溢れ、日々こうした場所では光線の存在はほとんど意識されることがありません。暗闇の中に一点の光を見るような時、その光の存在は強い衝撃を持つものになります。

キクマヤスナリさんはこうした意図から、あえて光が少なくなる夜に、人工的な光源が存在しない水庭で、“月の光”を通して今回の作品をつくりました。私たちが見る月の光とは、太陽の光が月に反射し遥か地球に届いたもので、その太陽―月―地球の間の距離は、途方もなく、そして刻々と変化します。キクマさんは、その距離から光の旅時間を計算し、光が旅する時間分、シャッターを開放することを試みました。

「シャッターを解放した瞬間に光が太陽から生まれ、シャッターを閉じる瞬間にその光が地上にたどり着くという、光の旅時間を感じられます。」とキクマさんは語ります。この、太陽から月を通して届く微かな光によって浮かび上がる被写体が、水庭です。撮影は、満月の夜、微かな月の光を背にファインダーを覗くことをせず写真を撮るという、“人間的な視点”から距離を置くことが意識されています。キクマさんは「自然と人間の対話の場所とも言える“庭”という場所で、人間の規模を超えた途方もないもの、人が見ることができないものを表現したかった」と語っています。

このようにして、人が介在する「水庭」が、原始的な光を媒介として人間を超えた世界へと繋がっていく、稀有な作品が生まれました。それはまた、人間を超えた尺度を通じて、人間というものを捉えなおす試みであるともいえます。文明が発達し、あらゆるものを人間の力で捉えることが可能と思われがちな現代に
こそ、こうした人間を超えた「存在」への、思慮深さというものが求められるのではないでしょうか。写真の技法を使ってはいますが、ここに写されているものは、写真を超えた目に見えない存在であり、また私たち自身の姿でもあるのです。

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