Addition - Subtraction

Aug 19, 2022 — Exhibition: Solo
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この度MAKI Galleryでは、鎌倉を拠点に活動する鍵岡リグレ アンヌの個展「Addition - Subtraction」を、天王洲 I ギャラリースペースにて開催いたします。

足し算と引き算を意味する本展のタイトルは、鍵岡特有の彫刻的油彩画の表現方法そのものを象徴するとともに、鍵岡が試みる絵画の本質的要素に迫る多角的なアプ ローチをも意味します。本展で発表される、顔をモチーフに描く新たなシリーズ「Portrait」の 18 点の作品は、2021 年の個展で展示された「Figure」、「Element」シリーズによる探究を継承しつつ、鍵岡の到達した新たな芸術的局面を示します。進化を続ける鍵岡の最新作をどうぞご高覧ください。

 日常の中に現れる抽象的な形や自然のエネルギーを表現することで、目に見えるものの背後に存在する不可視な性質や要素を引き出す試みを続けている鍵岡は、グラフィートという古典的な壁画技法と布のコラージュを組み合わせた独特な油彩画表現を用い、水面の反射をモチーフに数多くの作品を制作してきました。足しては削る行為を繰り返し生み出される立体的な絵画は、具象と抽象の間を行き来する水面というモチーフの複雑性や生彩を見事に捉えています。作家の代表シリーズ「Reflection」は、水面に映る風景が抽象的なビジョンへ向かう瞬間の燦たるエネルギーを収め、「Figure」シリーズは、その中に映り込む人体像が背景と歪み溶け合う様を鮮烈に描いています。「Element」シリーズでは、巨大な岩々を背景から切り出し、綿布のキャンバスの地を残すように描くことで、モチーフそのものの持つ威力を写し取るかのような試みがなされています。水墨画を思わせる余白の存在は画面に緊張感や広がりを与え、躍動する岩の生命力を強調します。

これまでの作品群で扱われた表現方法や考察は、新たなシリーズ「Portrait」に受け継がれ、発展を遂げます。「Figure」シリーズでは風景の一部として在った人物像が、今回は更にその顔へと焦点が絞られ、作品 の主題となっています。シリーズを経る毎に扱う対象が限定されていく中で、鍵岡の作品は絵画の本質へと 接近していきます。以前の作品と同じく水面の反射を描くものの、「Portrait」での関心は顔というモチーフそのものに向かっています。水の流動的なエネルギーや生命力は、モチーフの様相やその動きへと変換され、より具体性を増した形で現れます。また、周囲の要素を排したニュートラルな背景と質感ある筆致で描かれる顔の像のコントラストが際立つ画面では、イメージが抽象化に向かう過程の形態変化がより詳らかに描写されます。水や風などの自然の作用により歪曲、変容、圧縮、誇張、細分化され、解体と再構成を繰り返す像。 人間の想像力を超えるその自由な形態は、リズムと色、そしてマチエールとともに画面を構成し、具象性のあるボリューム感も相まって複雑な表情を作り上げています。変容の様を追うその表現は、観る者に強い動的印象を与えます。

更に「Portrait-pair」の作品では、色数や彩度、マチエールの制限を伴った立体性の消失が試されており、 鍵岡の芸術実践の次なる展開が明らかになっています。物理的引き算は、構図や粗密、陰影など作品構成の 基礎部分を露わにすることで、作品の重層性を伝えるという新たな効果をもたらしています。

「Portrait」における肖像画の多面的表現は、二次元と三次元の問題を扱った美術史の文脈上でも語ること ができます。20 世紀初頭にヨーロッパ美術に革命をもたらしたキュビズムは、複数視点からのイメージを一画面に集約することで、流動性と生命力ある作品を生み出しました。鍵岡は更に一歩進み、そこに彫刻的な 要素を加えることで視覚的複雑性の増強を実現しています。また、肖像画の歴史上で鍵岡の作品を見るならば、 写真技術の登場により 20 世紀に翳りを見せたジャンルに、その従来の社会政治的性質とは異なるアプローチ で取り組んでいることが注目されます。それは、色彩や形態、質感や動きに個々の性質を確かに表しながら も「誰かの顔」であることを超え、まるで水面のように、覗き込んだ者を映し返し、その想像力や知覚を刺 激するのです。
独自の表現で絵画の根幹への考究を推し進め、新たな絵画の歴史を築かんとする鍵岡。その作品の持つ生命
揺さぶる迫力を、是非会場にてご体感ください。

EXHIBITED ARTWORKS

EXHIBITION

Addition - Subtraction

Aug 20 — Sep 22, 2022

Presented by MAKI Gallery / 天王洲 Ⅰ Past

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