写真家 天野裕氏の個展 “ あなたがここにいてほしい ”がSAIにて5月15日より開催

Apr 30, 2025 — Exhibition: Group
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この度、SAI では、写真家・天野裕氏による個展 “ あなたがここにいてほしい ”を開催いたします。

1978 年、福岡県北九州市に生まれた天野は、30歳の頃より写真を撮り始め、2009 年には塩竈フォトフェスティバルで大賞を受賞し、写真界において鮮烈なデビューを果たします。その後、全国を軽自動車で寝泊まりをしながら旅を続け、日時と場所を SNS 上で指定し、そこへ訪れた者に1 対 1 で自作の写真集を閲覧させる「鋭漂」というスタイルを 17 年間続けます。2020 年頃からは大牟田にあるもとはラブホテルであった自宅マンションを、図書館兼ギャラリーとして、いつでも誰でも訪れることのできる場所として解放し、写真家としての活動の幅を大きく超えていきます。

暗闇の中を漂う光、どこともわからない旅先の海、握られた手、室内の風景、流れた血、刃物、薬など、天野の写真には、天野の生きる世界の断片が写し出されています。携帯のカメラ機能を使い撮影されたそれらの写真は、ファインダーをのぞいて撮影するという普段写真家が行う動作を必要とせず、時には自撮りやスクリーンショットさえも使用しながら、瞬間瞬間の生々しさを記録していきます。しかし、その写真は「私写真」という枠では到底くくることができず、抽象的で、詩的で、まるで 1 本の映画を見るかように、天野の作り出した世界へ引き込まれるような感覚にとらわれます。

「本当の世界はあなたとわたしの考える脳の外側に広がる果てしない暗闇の中にあるのではないか」と言う天野は、1 枚の写真を通して、その先に広がる過去や未来、そして生や死を提示しているかのように感じます。

30年以上重い鬱(うつ)と闘い、苦しみながらも生きる天野の近くには常に死というものが身近に存在しています。何かを刻み込むように、この世界の一部をもがきながら切り取ったような写真は、厳しく、はかなく、そして何物にも変えられない一瞬の美しさを持ち得ます。

4 つの部屋に分かれた SAI での展示は、新作展示をはじめ、過去にない規模となります。ぜひこの機会にご覧いただけると幸いです。

STATEMENT

"障の義别"

私は今
これ
読んどる
あんた
だけに
言うとく

その
あたりや
何処に
でもある

誰が
どうで
何が
どれでも
かわりゃせん

写真展
ちゃうぞ

来るなら
"礼節"
いう
言葉
調べとけ

やないと

掴まれ
裏に
行こうか?


私は本来なら
表社会
とは無縁の
男や

汚顔の
飼われた
腐肉共が
私たち
鋭き
獻に
敵やせん

やが
こげな
どっちが
表で
裏か
わからん
世の中に
なりゃ
どうも
こうも
無いわ

あんたも
感じる
日々やろ

私は
子供ん
頃から
ずっと
死が

離して
くれんのや

血が
人間の
それやない


子供は
いらん
愛する者に
悲しい
想い
させとう
ない

まあ
折角
こうして
私を
知ったんなら
写真の
一枚です
買うて
行ってくれ

先に
大切な
人らに

残して
あっちに
行った
者たちの
家族
子供
女梐へ
渡して
やりたいけぇ

これが
最後かも
知れん


みたいな
男は
今夜
その
あたりの
どこにでも
ある
夜の
路地裏で
淋しく
誰にも
看取られず
殺られて
終わりや

何も
遺さん
忘れてほしい

天野裕氏

SPECIAL COMMENT

“夜を終わらせに“

種田山頭火を放浪の併人と呼び、山下清を放浪の画家と呼べるならば、天野裕氏は放浪の写真家である。

写真家としてデビュー早々に賞を獲得しながら、スタジオを持たず、展覧会をせず、写真集を出さず、軽自動車に寝泊まりしながら日本中を走り回り、ツイッターで「きょうはこの町にいます」とつぶやき、喫茶店やファミレスやスナックや公園で「客」を待つ。旅の時間のなかで撮影した写真をコンビニでプリントして束ねた「写真集」をテーブルに置いて。そうしてやってきた客に「ー冊千円」で写真集を観せる。一対ーで。その見物料で食費やガソリン代をまかない、また次の場所に行く。毎日が旅で、毎日が撮影で、毎日が一期一会の、極私的な展覧会。そういう生活を天野くんは、僕が 2017 年に出会った時点で5年も続けてきた。いまはからだの具合が悪くてなかなか難しいらしいけれど、快復したらきっとまた旅に出る日々が戻ってくるはずだ。

旅することの本質はたくさんの場所を訪れることではなく、移動し続けることにある。立ち止まらないと探せないこともあるけれど、走っていないと見えない景色もある。そういう瞬間を撮り集めてきた天野くんは、まさしくストリートで生まれ、ストリートに生きてきた写真家だった。
その天野裕氏がホワイトキューブのギャラリーで展覧会をすると聞いて、驚いたひとがきっといるだろう。違和感を抱いたひともいるはずだ。

立派なギャラリーにすっきりした 装の大判プリントを余白たっぷりに並べて、ハードカバーの分厚い写真集も刊行して、おしゃれなオープニングパーティーでにこやかに談笑・・・そういうアート・フォトグラフィー業界のシステムに背を向けて、地べたにひっついてきた天野くんの気持ちも、この展覧会の企画を聞いたときの戸惑いも、痛いほどよくわかる。

ただ、何年間も天野くんの写真と付き合っているうちに、僕個人としては「この写真を取り澄ました業界の真ん中にぶち込んでみたい」という思いも浮かんできた。それは今回のギャラリーの運営者も同じだろう。だって、写真のことはなんでも知ってるつもり、みたいなひとたちにこそ、この写真を突きつけてみたいから。

既存のシステムの外側で、既存のアートや写真愛好家たちの外側にいるひとたちのために、天野くんの写真は存在してきた。それは写真業界の端っこにいる僕にとってはあまりに奇跡的で羨ましいサバイバルのスタイルでもあった。

でも、その尊く、同時に閉じられた輪のなかから写真を引っ張り出して、仮想敵だと思っている場所一一ひとりもサポーターがいないアウェイのフィールドで、あえて対戦相手のルールに従って勝負してみたら。

天野くんの写真が、たかが場所や展示方法で見え方が変わってしまうほどヤワな写真なのか、それともいろんな違和感を軽快なフェイントで駆け抜けて美しいゴールを見せてくれるのか。それを僕らはもうすぐ目撃することになる。

ー 写真家・編集者 都築響ー

GALLERY INFORMATION

EXHIBITED ARTWORKS

EXHIBITION

天野裕氏 個展 “あなたがここにいてほしい ”

May 15 — Jun 8, 2025

Presented by SAI 近日開催

VENUE

ORGANIZERS