MAKI Gallery ではこの度、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するアーティスト、ススム・カミジョウの弊社での 3 年ぶりとなる個展「帰って来たら When You Come Home」を天王洲ギャラリーにて開催いたします。
2014 年からプードルをモチーフに取り入れ、紙にクレヨンやパステルを駆使して作品を制作してきたカミジョウ。近年はキャンバスとアクリル絵具を用い、プードルを起点としながらペインティングにおける形、色彩、構図、質感のあり方を追求し続けています。ブラシの巧みな動き、そして色と色を層にすることによって生み出される多様な表面の質感、直線と曲線を組み合わせて描かれた形を繋ぎ合わせることによって現れる絶妙なバランスの構図は、観るものに作家の絵を描くということに対する深い探究心と純粋な好奇心を伝えます。
当初からプードルというモチーフに対する感情的なこだわりはないと話していたカミジョウの言葉通り、本展で私たちが対面するのはプードルというオブジェクトが抽象化されることで生まれた、獣のようにも人間のようにも見える捉えどころのない生き物です。
さらにこれまでの作品は背景に多くのネガティブスペースを残しながら屋外空間にプードルを描いてきたのに対し、本展では画面をいくつかに分割して描かれた室内空間にモチーフが配置され、背景にこれまで以上に多様な色彩や要素 ―鳥、猫、魚など― を取り入れています。これは人物と周囲の装飾を融合させ、日常的な風景の中に構図の調和を生み出したフランシス・ベーコンやアンリ・マティスの影響を受けながらも、カミジョウが作家として自身の内面に深く向き合おうとする姿勢から生まれたものです。細部まで描くことを通して自身の奥深くに内在する心理、欲求と交わり、自分が本当に描きたいと思う絵画と向き合う機会を作り出し、作家としてのあり方や癖を打破しようとするカミジョウの姿勢が現れています。
それは時に葛藤を覚えながらも、ススム・カミジョウというアーティストのあり方を突き詰め肯定していくプロセスのように思えます。抽象的絵画に多大な影響を受けつつも、完全なる抽象へと向かうのではなく線、色、形を突き詰めながらある程度の具象性を残していること、人間や社会の暗部を描き出すような作品に憧れつつも、明るさ、遊び心を忘れないこと、画面いっぱいのカオスを描いてみたいという衝動に駆られながらも、余白や構図のバランスを維持していることなどは全てカミジョウの意識的な決断であり、その全てがススム・カミジョウにしか生み出せない世界を形作っています。だからこそ彼の作品の前で私たちはどこか前向きでいられるのかもしれません。
「戻ってくるものがわかってきた感覚がある」とカミジョウが語るように、様々なペインティングのあり方を試行錯誤しながら内なる欲求に近づく過程で、作家は自身の内面、そして作品の中に繰り返し現れる感覚や表現に気づきを深めています。本展の作品が示すように、今後もカミジョウの生み出す絵画がプードルとともに進化を遂げていくことは疑いようがありません。自分との深い対話を通じて生み出された新作の数々をどうぞ会場にてご高覧ください。
文・竹田春菜
EXHIBITED ARTWORKS
EXHIBITION
ARTISTS
VENUE
- URL
- https://www.makigallery.com/ja/about/#tennoz
- 住所
- 東京都品川区東品川1-33-10
- Tel
- 03-6810-4850
- 休館日
- Sun・Mon
- 入館料
- 無料
- 備考
- 営業時間:11:30-19:00